損金にかかる別段の定めについて

平成18年度税制改正まで、役員賞与を損金不算入とする規定があり、その背景には、役員賞与は会社にとって費用を控除したあとに残る利益を処分するものであるという考え方であった。利益の処分は資本等取引に該当し、損金に算入できないため、役員賞与はその全額を損金不算入とすべきことになる。役員の報酬や退職金についても、不相当に高額な部分につき損金算入を制限するなどの規定が置かれている。役員賞与の損金不算入規定のルールの趣旨は、役員給与の支給の恋意性を排除することが適正な課税を実現する観点から不可欠であることから、法人段階において損金算入される役員給与の範囲を職務執行の対価として相当とされる範囲内に限定することである。平成18年度税制改正後の法人税法34条は、従来の役員賞与や役員報酬、役員退職金などを一括して役員給与と呼び、損金算入の可否をルール化した。法人税法34条は、一定の役員給与を損金不算入とし、役員給与の概念は広く、賞与や退職給与、債務の免除による利益その他の経済的利益を含む。事前届出給与は、役員の職務につき所定の時期に確定額の金銭を支給する旨の定めにもとづいて支給する給与で、届出期限までに所定の事項を記載した書類を税務署長に届け出ている場合の給与である。届出期限は、株主総会で役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めをした決議日から1月を経過する日であり、臨時改定事由が生じた場合は、1月を経過する日までに届出が必要である。事前届出を要求する趣旨は、事前の定めに従うことによって、役員給与の支給時期や支給額に対する恣意性を排除することにあり、確定数の株式・新株予約権を交付する場合も損金不算入から例外とされている。

このことから、ある法人から問題1の相談を受けた場合には問題があり、その理由として、三和クリエーション株式会社事件判決を参考にすると、株主総会決議の趣旨が、全職務執行期間の職務執行の対価として一体的に給与を定めるものであること、個々の支給ごとに判定することにすれば、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておいて、その後、個々の支給ごとに判定し、事前の定めのとおりにするかどうかを選択して、損金の額をほしいままに決定できる等の弊害が生じるからである。

過大な使用人給与の損金不算入について、役員給与の損金不算入措置のみが存在する状態では、役員がその親族などを会社の使用人とし、会社から給与を支給すれば、会社の課税所得を圧縮でき、親族間に個人所得を分散することになるため、各人が給与所得控除や人的控除を利用し、累進税率構造の下で比較的低い税率の適用で済んでしまう。これに対抗するために、過大な使用人給与の損金不算入規定が必要であり、役員と特殊の関係のある使用人に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は、損金に算入しないのである。そして、役員と特殊の関係のない使用人に対する給与は、この規定の対象外であり、法人段階において、損金算入される役員給与の範囲は、職務執行の対価として相当とされる範囲内に限定される。そして、税制改正の背景には、会社法における取締役報酬にかかる恣意性排除の規制と企業会計における役員賞与の期間費用化である。