通貨と世界経済について

 国際通貨の定義として、自国内、及び自国と外国の取引以外で広く使われる通貨であり、国際通貨は中世より国際貿易で広く用いられてきたのである。例えば、ベネチアのダカット金貨、オーストリアのマリア・テレジア銀貨等がある。現代の国際通貨の代表は米ドルであり、国際通貨の代表は米ドルであり、国際通貨として米ドルが広く使われている状況を米ドルの通貨覇権とも言われている。マリア・テレジア銀貨は、18世紀後半、日本の江戸時代後期に発行された銀貨であり、オーストリアのマリア・テレジア銀貨は20世紀前半まで200年近くアラビア半島、東アフリカ間の交易で使用されていた。オーストリア政府は、マリア・テレジア銀貨が使われなくなった後も長期に渡って、同地域に向けて銀貨を鋳造、出荷し続けたのである。

次に通貨・貨幣の役割について、通貨には3つの役割・機能があり、 1つ目は、経済取引で使う交換機能、2つ目は、価格表示機能、3つ目は、モノを購買する価値というものを保存できる価値貯蔵機能である。国際通貨についても同様に考える事ができ、1つ目は、国際的な取引における交換手段、2つ目は、国際的に取引される財・サービスの価格表示、3つ目は、国際的に利用可能な国際通貨建て等の資産を提供するための機能がある。具体例を出すと、米ドルの国際通貨としての機能で、価値貯蔵機能をというのをどういった形で果たしているかというと、財務省がアメリカ国債というものを発行しており、これは流動性が高く、売買が容易なものであり、価値が安定しているため、アメリカは流動性の高いアメリカ国債を発行することで、国際的に利用可能な資産を提供しているのである。そして、アメリカ国債というものが、各国の中央銀行当局が持っている外貨準備資産の中心を占めているのである。次に価格表示機能では、最近、日経のニュースで取り上げられた日本の1人当たりのGDPが韓国に逆転されるというニュースを例にすると、日本と韓国のGDP、国際間の経済データをドル建てで比較されている。これは、各国のGDPをそのまま表示すると、日本円や韓国ウォン、台湾であれば台湾ドル等で表示されるが、この場合であると、直接的な比較が不可能であるため、この時に、米ドルが共通の尺度として使われるのである。

国際通貨を発行するメリットは、通貨の発行による利益・貨幣発行益の増加により、通貨発行主体は金利無しの負債・通貨で金利を生む資産を得られ、為替リスクの回避で通貨発行国は自国通貨建てで取引できるので為替レート変動に伴うリスクがなく、低コストでの資金調達で外国投資家が自国通貨建て資産を保有するため、低い金利で国債や社債を発行できることである。アメリカの国際投資ポジションの特徴は、アメリカ国債等の安全資産を海外投資家に供給し、 低い金利で海外から借り入れることができ、一方、活発に海外株式などリスクの高い資産に投資をし、高い収益を稼ぐことができる。アメリカは、低金利の負債と高収益の資産という国際投資ポジションで大きな利益を得ており、これは、米ドルが国際通貨であることから可能になっているので、一部の研究者からは法外な特権、exorbitant privilegeと呼ばれている。

次に長期に渡る米ドルの通貨覇権に与える動きについて、暗号資産の登場と拡大であるが、暗号資産というのは、基本的にはブロックチェーン・分散型台帳という技術で中央集権的な管理なしに取引の安全を確保することができるものであり、国家などによる価値の裏付けを持たない資産・仮想通貨が価値を持つことが可能になったのである。仮想通貨・暗号資産として初めて登場したのがビットコインであり、これは2009年に誕生した。ビットコインは、2008年にサトシナカモトというおそらく仮名の人物の論文がもとになって作られたものであり、それが急激に拡大し、現在、世界で取引されている暗号資産・仮想通貨は5000種類以上まで増えており、2021年9月には時価総額が3兆ドル、日本円で340兆円を超えたのである。2021年には、中南米のエルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨として採用した。

暗号資産は、暗号資産の使用によって、従来の通貨を使った国際取引のコストを劇的に引き下げられ、国際通貨の交換機能、価値貯蔵機能を担い、従来の国際通貨(米ドル)に取って代わる可能性があり、また、近年では金融市場が不安定な時期に逃避先として暗号通貨を買う動きもあるため、暗号資産が国際通貨になる可能性はゼロではないが、暗号資産にとっての障害と限界もある。暗号資産が通貨としての機能を果たすには、極めて激しく変動する暗号資産・仮想通貨の価値の安定が求められる。また、価値の安定したステーブルコインで国際決済を行う動きもあるが、ステーブルコインを発行する私企業が独占的な利益を得る危険もあり、主要国は中央銀行デジタル通貨による国際取引のコスト低下を模索する可能性もあるため、暗号資産が通貨としての機能を果たすにはもう少し時間がかかると思う。